機動戦士ガンダムSEED DESTINY #EX「コーディネイターと民主制」


コーディネイターの国家であるプラントの政治体制については従来から疑問があった。さらに、最近のデュランダル議長の行動を見ていてさらに疑問に思う。
「果たして、プラントにおいては民主制が採られているのだろうか?」と。
作中で描かれていない部分も多いため、あくまで勝手な妄想であるが、この疑問を出発点にして、ちょっとだけ遊んでみよう。


最高評議会議長については、選挙が行われているようだ。前作においてパトリック・ザラ選出の描写もあった。ただ、記憶が定かでないせいもあるが、その具体的経緯については不明だ。選挙人は誰なのか?国民か評議会メンバーなのか。対抗馬はいたのか?信任投票だったのか、シーゲル・クライン*1と争ったのか、他の人物が立っていたのか。


だいたい、パトリック・ザラもそうだけど、軍服*2の人物が最高評議会メンバーってどうなの?百歩譲ってパトリック・ザラは、国防委員長という役職柄(とはいえ、政治家のはずなんだが・・・軍部大臣現役武官制か?)、軍服を着ていたのだとしても、議長就任後も依然として軍服。さらに、他にも軍服メンバーがいるのはどういう訳で?
戦時下であるから、政治家と軍人が会議を開くことは当然にあってしかるべきだが、あの円卓では最高評議会が行われているのでしょう。日本で言えば閣議だ。だから円卓にしたのか?*3とするなら、閣僚の実に半分が軍人で占められていることになるね。


いくら戦時下とは言っても、近代民主国家において、国家の最高責任者が軍服のまま就任することには違和感ありすぎだった。そんな国ある?北朝鮮リビアキューバ・旧イラク・戦前日本・戦前ドイツあたりが想起されるのだが・・・、こりゃプラントはたいした民主国家ですねw
英国の首相や米国の大統領が軍服着て就任したらどうよ。首相候補の一人*4である小泉氏が首相就任後に自衛隊の観閲式に軍服で出たらヤバイでしょ。
確かに、戦争中でも任期切れによる議長選挙が挙行されること自体は好感がもてるし、政権交代で方針が変わること*5自体は正常であり、むしろ望ましいこと(方針の内容は別にして、政権交代とはそういうものだ)なのだが。


さらに言えば、最高評議会メンバーの選出方法も明らかではない。前作において、クルーゼ隊赤服の親は全員が評議会メンバーだったが、これは縁故・親の七光りと言うだけではないだろう。実際、彼らは優秀な「戦士」だった。とすると、評議会メンバーも遺伝子的に優秀な者が選ばれている可能性もある。「科学の子」であるコーディネイターにとっては、「民主的に国民から選ばれた者」よりも「遺伝子的に優秀である者」の方が信頼されるのかもしれない。


とするならば、ここにコーディネイターの思い上がり故の政治体制の未熟さ」が見て取れるのではないか。
人類が歴史上学び取った知恵である、権力の分立や文民統制といった、権力の暴走を防ぎ、その均衡・抑制を企図した仕組みを放棄してしまっているように見えるのだ。
「たまたま(国民にとって)良い人が上に立ったから良い政治になる」のではなく、「たとえ、(国民にとって)悪い人が上に立ったとしても、その暴走をシステムとして抑止し、交代を促すことが出来る」、そういった仕組みにはなっていないのではないか(実際、パトリック・ザラ元議長は射殺されるまで走り続けた。デュランダル議長だって、殺す以外に止める方法はないのかもしれない。)。
コーディネイターはこういった「権力の暴走の可能性*6」や、「指導者の個人的資質に左右される可能性」を何故放置しているのだろうか?


プラント国民であるコーディネイターは、その歴史的経緯から見ても「科学の子」として誕生してきた。必然的に、科学万能の思想が支配的になるのも仕方ないだろう(自然受胎率の低下などを受けて、そこに疑問を持つ人々もいるだろうが)。宗教的なことは、前作・今作共に語られていないが、コーディネイターはあまり宗教に拠り所を得たりはしないのかもしれない。だからこそ逆に、ラクス・クライン(ミーア含む)のような「偶像(アイドル)」に熱中する傾向が生まれるのかもしれない。
そんな彼らにとっては、自分たちこそ「人類の叡智によって進化した新たな人類」であり、「無能なナチュラルどもが、自分たちの無能さをカバーするために作った仕組み」など採用する理由もないと思うのだろう。
作中で奇しくもハイネが口にした「群れなきゃ何も出来ない地球軍のアホども」という言葉*7。私はここに、コーディネイターが抱くナチュラルに対する優越感と共に、コーディネイターの限界を見た気がした。
個々の能力が*8確実にナチュラルを上回っている以上、集団の力を結集する必要性を感じないのかもしれない(1機のMSで10機のMSを討てば良いのだから)。
このあたりは、前作から割と一貫して描かれているようにも感じられる。前作のパナマ攻略戦で、1機のジンに対して数機のストライクダガーがわらわらと襲いかかる様子は印象的だった。演出の都合もあるのかもしれないが*9コーディネイター(強化人間も同様)は単独行動で戦っていることが多いように見える。
このようなコーディネイター達の考え方が行き着く先は「互いに能力を補完しあう集団社会からの脱却」なのだろうか?


確かに、民主的な仕組みは意思決定の迅速性を損なう面がある。それに比べれば、優秀な者によって迅速に意思決定が行われる方を選ぶのかもしれない。まして、その優秀さが(自分たちの信奉する)科学によって証明可能なのだから。
「分析的思考は能力の劣る者による『言葉遊び』であり、優秀な者による全体的考察・直感による決断こそが重視されるべきだ。」
こういった主張が、ナチス・ドイツ下でされていたと聞いたことがあるが、どうもコーディネイターのやっていることはこれに繋がっているような気がしてならない。


コーディネイターの持つ「個人の能力に対する過信」が、独裁者を生む。

*1:任期切れ・再選禁止の可能性もあるね

*2:あれは軍服なんでしょう?書き分けているからには。まさか、「好戦派」と「和平派」を分けていただけだったりしてw

*3:よくテレビで流れているのは閣僚応接室

*4:選挙中につき

*5:和平→ナチュラル殲滅

*6:先の大戦を経験しているにもかかわらず

*7:アスランも肯定していたが

*8:科学的に証明できる形で

*9:MSがかっこよく見えるためw